Column
空気と換気のコラム

坂本 雄三 先生

4.空調・換気の目標(室内環境基準)その②:空調・換気の目標を達成するための技術と手段

2022/07/14

空調・換気の目標を達成するための技術と手段

 

 前節において空調・換気が達成すべき目標が明らかになりましたが、そのためにはどのような設備を設けるとよいのでしょうか?この目標を実現する手段が空調・換気の技術と設備になりますが、ここでは、(1)換気の手法、(2)熱交換換気、(3)空気清浄機の3項目について、簡単ですがコメントしたいと思います。

 
 
(1) 換気の手法

 これは機械換気(24時間換気)の3手法、つまり第1種換気、第2種換気、第3種換気のことです。それぞれの換気がどんな手法で行われるのか、図1に示しましたが、多くの人が既にご存じのことだと思いますので、説明は省略します。この3手法以外にも自然換気システムがあります。トルネックスのこのコラムでも福島明先生がその一つである「パッシブ換気」を解説していますので、ここでは自然換気については触れません。
 


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図1 機械換気の3手法(第1種換気、第2種換気、第3種換気)
出典:(株)リベスト社Webサイト https://www.live-best.co.jp/blog/labo/article/article_528.html

 
 上記の3手法については、今まで多くの論者が長所・短所を語っています。例えば、①第1種換気は安定した換気を行えるが価格が高い、②第2種換気は室内が正圧になるので冬期に室内の湿気が壁に侵入し結露が発生するリスクが高い、③第3種換気は価格が妥当だが暖房時には浮力によって2階に新鮮空気が供給されない、などのことが指摘されてきました。筆者はアバウトな人間ですので、換気がストップすることなく継続して行われていれば、換気量や換気経路が時々変化することは「致命的な問題」にはならないと考えますが、換気技術を極めようとする人にとっては、8760時間(1年間)すべての吹出口から決まった風量の新鮮空気が吹き出されるシステムが理想の換気システムということになるのでしょう。
 
 とはいっても、2003年から始まった24時間換気の義務化によって住宅の空気環境はかなり改善され、健康被害も減少したと認識してよいのではないでしょうか。2003年から現在までに住宅に実際に設置された換気システムとしては3種換気が圧倒的に多かったと思われます。しかし、健康被害抑制の次の課題である温熱環境や省エネとの調和・整合を考えると、3種換気では満足できなく、1種換気が勢いを増しつつあります。

 

(2) 熱交換換気システム

 熱交換換気システムは昔からビル空調では使用されていました。私も大学院生時代に恩師である松尾陽先生からこのシステムについて教わった記憶があります。ですので、ビル空調ではすでに標準的な省エネ技術の一つになっています。このシステムは、ご存じのように換気の排気に含まれる熱(元々は暖冷房によって与えられた顕熱と潜熱)を回収して給気に付与するシステムですので、このシステムは第1種換気でなければ成立しません。
 
 筆者がここで述べたいことは、このシステムが今や住宅にもかなり浸透してきていることです。その理由は、住宅では断熱化が進んできたので、次の省エネ手法を選定する状況になっていて、熱交換換気は「換気による空気清浄」と「熱回収による省エネ」の両方を一挙に獲得できるというメリットがあるからだと思われます。また、もう一つの理由として、換気メーカーの努力によって、このシステムの信頼性が向上したことを挙げることができます。旧来は潜熱回収を行うと排気の匂いまで回収してしまうとか、寒冷地での排気が凍結するなどの苦情がありました。しかし、潜熱交換素子の改良や直流モーターによる省エネ化などによって技術革新がなされ、最近は優れた換気システムとして提供されているのです。
 
 では、全熱交換換気システムによって1年間にどのくらい熱回収が行われるのでしょうか?これを熱負荷シミュレーションによって算出した結果を図2に紹介します。この図から、熱回収量(省エネ量)は建物の断熱性にあまり関係なく10000[MJ/年]程度あることを読み取れます。しかし、この省エネ量の重みは高断熱になるほど重くなり、高断熱レベルの建物では28%の省エネ率になりますので、全熱交換換気は断熱の次に採用すべき有効な省エネ手法であると推測されます。


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図2 全熱交換換気システムの省エネ効果(熱回収効果)

 

(3) 空気清浄機
 空気清浄機は今回のコロナ禍によって大きな注目を集めました。コロナウィルスが本当に捕捉されたり不活化されたりして、感染のリスクが低下するならば、消費者には歓迎される商品となります。空気清浄機(その類似機器も含める)には清浄メカニズムの違いによって以下のようなタイプ分類が可能であると思われます。
 
①フィルターの濾過(ろか)作用によって汚染物質を集塵するタイプ(空気清浄機)
②高電圧によって汚染物質に静電気を与え集塵するタイプ(空気清浄機)
③光や紫外線をウィルスなどの汚染物質に照射し除菌するタイプ(類似機器)
④次亜塩素酸水などを浸透させたフィルターにウィルスなどの汚染物質を含む空気を通過させ除菌するタイプ(類似機器)
 
 ところで、上記の機器は空気を浄化する原理・手法は互いに異なっていますが、室内の空気を送風ファンでもって機器の中に寄せ集め、汚染物質を浄化した後、浄化空気を室内に吹き戻す点ではすべての機器で共通していると言えます。このようなタイプの空気清浄機に対しては、清浄機が汚染質を希釈する性能を、あたかも外気量(換気量)が増大したようにして評価することができます。つまり、空気清浄機を設置して作動させると、室内の汚染質濃度は外気量(換気量)が増大したときと同じように低減しますので、空気清浄機は換気量を増すことと同等の効果があることになります。図3は、(1)式のR(空気清浄機を稼働させたときの室内汚染質濃度を比率で示したもの)をグラフ化したもので、空気清浄機を稼働させると、空気清浄機の風量(Vf )に応じて室内の汚染質濃度(C2 )が低下することを示しています。また、空気清浄機の集塵効率(η )は70%以上であれば、濃度に大きな差異はなく、空気清浄機の性能としては大きな問題はないことを見て取れます。
 
  R =C2C1 =1/(1+ηN ) ・・・(1)
ここで、C1= MV :空気清浄機を停止した時の室内濃度[mg/m3]、
    C2M /(VηVf ) :空気清浄機を稼働させた時の室内濃度[mg/m3]、
                   なお、ηVf は「相当換気量」と称される。
 
 また、N = VfV :空気清浄機の換気量比[-]、V=外気量(換気量)[m3/h]、Vf =空気清浄機の風量[m3/h]、M =汚染質の発生量[mg/h]です。なお、室内では完全拡散理論が適用されるので室内の汚染質濃度は一様であり、かつ、外気における汚染質濃度はゼロと仮定しています。


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図3 空気清浄機の稼働時における室内汚染質濃度の低減

 

(つづく)

 
 


■講師ご紹介

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東京大学名誉教授

坂本 雄三 先生

専門は建築環境工学。1948年、札幌市生まれ。北海道大学卒業後、東京大学大学院博士課程を修了。建設省建築研究所・研究員、名古屋大学・助教授、東京大学・助教授を経て、1997年に東京大学・教授に就任。2012年に東京大学を退職し、国立研究開発法人・建築研究所・理事長に就任、2017年まで勤める。国土交通省、経済産業省、東京都などにおける審議会や委員会の委員を歴任。中でも、建築・住宅の省エネルギー基準の制定やZEH・ZEBのオーソライズにおいては委員長を務め、それらの成立に尽力した。また、空気調和・衛生工学会の会長も2010年から2年間務めた。主な著書として、『省エネ・温暖化対策の処方箋』(日経BP企画,2006)、『建築熱環境』(東京大学出版会,2011)。
 
 

■坂本雄三先生コラム一覧

1.コロナ禍による換気の再認識 その①:コロナ禍と対策レビュー

2.コロナ禍による換気の再認識 その②:換気の効用と役割

3.空調・換気の目標(室内環境基準)その①:法令で定めた空調・換気の目標

4.空調・換気の目標(室内環境基準)その②:空調・換気の目標を達成するための技術と手段

 

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