Column
空気と換気のコラム

坂本 雄三 先生

5.これから(ウィズコロナ時代)の空調・換気システム その①:全館空調のための「序論」

2022/08/03

全館空調のための「序論」

 

 さて本コラムも最後のテーマ3について語ることになりました。テーマ1と2(コラム第1~4回)では換気の常識みたいなことについて語りましたが、テーマ3では「これからの空調・換気」について語ってみようと思います。
 
 建築用途としてはまずは戸建住宅を想定します。なぜ戸建住宅から始めるかというと、建築の中では戸建住宅が最もバラエティーに富んでいるので、条件を設定するときに考えるべき事項が多いからです。つまり、戸建住宅で上手くいく空調・換気システムならば他のタイプの建築でも上手くいくと予想ができるからです。また実際の建築生産においても戸建住宅は棟数が多く、影響が大きいと思われるからです。
 
 「これから」を語るには、今後の約50年間、どんな世界と日本になるかを想像しなければなりませんが、これは誰にとっても難しい予想になります。そこで現在、流行や話題になっているトレンドやキーワードを拾い上げ、「これからの空調・換気」を想像することになります。ですから、あまり代わり映えしないキーワードが並ぶことになります。①脱炭素と省エネ、②健康とウィズコロナ、③防災と安全、④IT、⑤耐久性と長寿命、などです。もう少し具体的に考えると、高断熱化、良い暮らし(健康増進を含む)、ZEH、木造・木質化は政府のプッシュもあるので今後も拡大・普及しそうなキーワードに思えます。
 
 以上のような状況認識の下で戸建住宅の「これからの空調・換気」を想像してみます。つまり、高断熱の木造外皮と省エネ設備(ZEH設備)の下で「良い暮らし」に寄与する空調・換気システムが「これからの空調・換気」ということになります。筆者らは2012年にYUCACOシステム研究会を創設して、21世紀に相応しいポピュラーな住宅用全館空調システムの開発と普及を進めてまいりました。もちろん、従来よりビル建築では全館空調は当たり前ですし、住宅においてもビル用の空調システムを適用して全館空調を行うことは可能でした。しかし、このようなビル空調用の全館空調は初期コストもランニングコストも高くなってしまいますので、倹約好きな日本の家庭に普及させるにはそもそも無理がありました。そこで、高断熱と省エネ設備(高効率エアコンと高効率送風ファン)という前提条件の下で、手ごろな価格(100~200万円クラス)の空調システムとして、YUCACO システムを開発し、普及に努めることになったのです。
 
 YUCACOシステムの具体例を紹介する前に、このシステムにおける空調の考え方の基本を紹介します。これは、図1に示すように、実に単純な考え方です。高断熱の外皮に包まれた空間の空気をかき混ぜて空間内部の温湿度などをできるだけ均一にするという考え方です。高断熱が条件ですので、空間内部を24時間、適温に保っていても熱損失(冷房時の冷熱も含む)は大きくなりません。また、高効率の送風ファンで攪拌します(空気を循環させる)ので、ファンの電気代はわずかです。


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図1 高断熱外皮と室内空気の循環によって建物内全体に良好な温熱環境が形成される

 
 図2に示す簡単な建物モデル(A室とB室があって、A室にだけエアコンが設置されている)を想定して、高断熱(UA値[外皮平均熱貫流率]で評価する)の影響と空気循環(V[送風ファンの循環風量]で表す)の効果を分析してみました。


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図2 分析に用いた建物モデルと計算式(定常計算)

 
 図3が冬の場合の結果、図4が夏の場合の結果です。エアコンのないB室は、Vが大きいほど冬も夏もA室の温度(適温である)に近づきます。建物の内部全体をできるだけ均一な温度にするには送風ファンによる空気循環が必要であることを理解できます。また、暖冷房負荷を小さくして暖冷房費を抑制するためには、高断熱化が最重要であることも分かります。


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図3 冬におけるB室(非空調室)温度とA室の暖房負荷
 
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図4 夏におけるB室(非空調室)温度とA室の冷房負荷(マイナス表示)

 
 

(つづく)

 
 


■講師ご紹介

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東京大学名誉教授

坂本 雄三 先生

専門は建築環境工学。1948年、札幌市生まれ。北海道大学卒業後、東京大学大学院博士課程を修了。建設省建築研究所・研究員、名古屋大学・助教授、東京大学・助教授を経て、1997年に東京大学・教授に就任。2012年に東京大学を退職し、国立研究開発法人・建築研究所・理事長に就任、2017年まで勤める。国土交通省、経済産業省、東京都などにおける審議会や委員会の委員を歴任。中でも、建築・住宅の省エネルギー基準の制定やZEH・ZEBのオーソライズにおいては委員長を務め、それらの成立に尽力した。また、空気調和・衛生工学会の会長も2010年から2年間務めた。主な著書として、『省エネ・温暖化対策の処方箋』(日経BP企画,2006)、『建築熱環境』(東京大学出版会,2011)。
 
 

■坂本雄三先生コラム一覧

1.コロナ禍による換気の再認識 その①:コロナ禍と対策レビュー

2.コロナ禍による換気の再認識 その②:換気の効用と役割

3.空調・換気の目標(室内環境基準)その①:法令で定めた空調・換気の目標

4.空調・換気の目標(室内環境基準)その②:空調・換気の目標を達成するための技術と手段

5.これから(ウィズコロナ時代)の空調・換気システム その①:全館空調のための「序論」

6.これから(ウィズコロナ時代)の空調・換気システム その②:YUCACOシステム

 

※当コラムや画像等及びその内容に関する諸権利は、原則として株式会社トルネックスに帰属します。また、一部の画像・イラスト等の著作権は、原著作者が所有していますので、これらの無断使用、転載、二次利用を禁止いたします。

 

 
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