Column
空気と換気のコラム

坂本 弘志 先生

6.外気清浄機を有する第2種換気の実現に当たっては

2016/05/19

はじめに

PM2.5で代表される汚染された外気の室内への侵入の防止に当たっては、給気経路に汚染物質を除去する外気清浄機を取り付けることが、今のところ有効な方法であると考えられます。このような微細粒子を除去出来る外気清浄機は、当然ながら他の換気設備にも取り付けることは可能ですが、中でも給気ダクトのみで構成される第2種換気は、その給気経路に外気清浄機を容易に取り付ける事が出来る優位性が有ります。ただ残念ながら、第2種換気は壁体に湿気を押し込んで内部結露を生じさせる危険性がある等の理由から、採用の実績は殆んどありません。そのために第2種換気に関しては、その基本的コンセプトさえも確立されていないのが現状です。このようなことから本コラムは、PM2.5で代表される微細な汚染物質、黄砂、火山灰、スギ花粉等の室内への防止を図る上での外気清浄機を有する第2種換気に関して、「外気清浄機を有する第2種換気の実現に当たっては」と題して取り上げて見ました。

これまで第2種換気は何故実用化されなかったのか

換気設備は、知っての通り、第1種換気、第2種換気、第3種換気、およびパッシブ換気に分類されますが、現在主流となっています換気設備は第1種と第3種であり、第2種換気の採用は殆んど有りません。その理由としては、以下のものが考えられます。

(1) 換気の先進国である北欧や北米では、第1種と第3種換気が主流で、第2種換気はほとんど普及していない。そのために、北欧や北米においても、第2種換気に関する技術的な資料は殆んど皆無である。

(2) わが国は室内換気に対する技術を北欧や北米から導入し、発展させて来た.そのために日本でも同じように第1種と第3種換気が主流となった。

(3) 壁体の内部結露は、住宅の耐久性を著しく損なせるとの認識の下に、室内を正圧とする第2種換気は、水蒸気を壁体に押し込む危険性が高いとの考えから、殆んど採用されて来なかった。

(4) 強制給気によって生じる室内正圧は、極めて大きくなるとの考えが流布し、そのために室内の正圧は色々な障害を生み出すのではないかとの疑念が生じた。残念ながら、その疑念を払拭する努力はこれまで全く無かった。

第2種換気には幾つかの優れたものがある

第2種換気は、つぎに示すような幾つかの優れたものを持っています。

(1) 給気経路にPM2.5で代表される微細粒子を除去出来る外気清浄装置を容易に取り付ける事が出来る。

(2) 給気経路に給気を加温する装置を簡単に設けることが出来ることから、冬季での給気の冷気対策が容易に出来る。

(3) 室内が正圧となることから、壁体を構成する建材からの揮発性有機化合物(VOC)の室内への放散が防止される。

(4) 給気経路の簡素化の実現が可能である。その結果、価格と施工費の削減を図ることが出来る。

(5) 換気設計は、第1種、あるいは第3種に比べて極めて簡単である。

 

また表1は、第2種換気の他の特性に関して、第3種換気と比較して示したものです。


sakamoto_6-1
表1 第2種と第3種換気の性能の比較

 

第2種換気で生じる室内の正圧は

第2種換気では給気を強制的に行うことから、室内は正圧(大気圧より高い圧力)となります。この正圧はどの程度のものになるは殆ど分かっていません。また正圧は色々な弊害を生み出すのではないかの懸念もあります。これらの疑念を払拭すれために、第2種換気で生じる室内の正圧の評価を具体的に行なって見ます。

第2種換気で給気ファンに求められ必要静圧(換気経路に生じる総圧損)は、[外気取り入れ口から室内給気口までの圧損]と、[室内排気口から外部吐き出し口までの圧損]の総和となります。この場合の室内に生じる圧力(正圧)は、室内排気口から外部吐き出し口までの圧力損失にバランスする形で生じることになります。すなわち、室内に生じる正圧は以下に示すものとなります。


発生する室内正圧=室内排気口から外部吹き出し口までの圧損

 

この室内排気口から外部吹き出し口までの圧損は、具体的には排気グリルと排気フードによって生じるものです。このことをより分かり易く説明したものが図1です。すなわち室内からの空気の排出は、室内圧Paが室内の排気口から外部フード出口までの圧損Peにバランスする形で行われます。その結果、室内に生じる圧力(正圧)Paと、室内排気口から外部吐き出し口までの圧損Peが等しくなるのです。当然ながら排気経路の圧損Peは、用いる部材と排気量によって異なります。一般的には排気グリル1個当たりの流量25~30m³/hでは、大きくても10Pa程度です。したがって、第2種換気の場合での室内に発生する正圧は、10Pa以下と考えて良いことになり、これまで言われているような大きな正圧とはなりません。


sakamoto_6-fig1
図1 第2種換気で生じる室内正圧

 

第2種換気は壁体内結露の発生の元凶となるのか

第2種換気は、室内の正圧によって壁体に室内への湿気の侵入を促進させ、壁体内に結露を生じさせると言われて来ました。知っての通り、住宅の壁体への湿気の侵入の防止は、室内側の壁面に防湿・気密シートを施工することによって行われています。それではここで、第2種換気で生じる室内の正圧による壁体へ浸入する水蒸気量は、どの程度のものとなるかを評価して見ます。壁体へ浸入する水蒸気の量は、つぎに示す算定式によって評価されます。

 

[壁体に浸入する水蒸気量(g)]=
1

透湿抵抗
×[壁体面積(m²)]×[時間(h)]
×[室内の圧力(mmHg)]       (1)

 

ここで、式(1)に含まれる防湿・気密シートであるポリエチレンシートの透湿抵抗は、表2に示すものとなります。


sakamoto_6-tab2
表2 防湿・気密シートの透湿抵抗

 

また上述したように、第2種換気の場合での室内に発生する正圧は10Pa程度です。この室内の正圧10PaをmmHg(水銀柱)に換算しますと、標準大気圧760mmHgは1.0133×105 Paとなることから、つぎのようになります。

 

1Pa=7.501×10-3 mmHg → 10Pa=7.501×10-2 mmHg

 

かかる条件の下で、式(1)に基づいて、厚さt=0.1mmのポリエチレンシートが施工された壁体に侵入する水蒸気の量を求めて見ますと、つぎのようになります。

 

[浸入する水蒸気量(g)]= 
1

452
 ×1(m)×1(時間)×7.501×10-2(mmHg)
≒1.66×10-4(g/m・h)

 

ここで、例えば床面積6.3m×9.9mなる建物の1Fの壁体に浸入する、1日当たりの水蒸気の量を求めると、つぎのようになります。

 

[浸入する水蒸気量]=1.66×10-4×{2(6.3+9.9)×2.4}××24(時間)
≒0.31 (g/日)

 

したがって、第2種換気で生じる室内の正圧が10Pa程度では、殆んど防湿シートを通しての壁体内への水蒸気の浸入はないものと考えることが出来き、これまで言われて来た第2種換気は壁体の内部結露の発生の元凶とはならないことが分かります。

第2種換気に求められる住宅の気密レベルは

第2種換気での給気ダクトの汚れは、室内の空気質に多大な影響を与えます。そのために給気ダクトの清掃が必要とされます。ただ第1種においても、給気ダクトの配管が複雑であることから、清掃は殆んど行われていません。そのためには、第1種と第2種換気のいずれにおいても給気ダクトは、清掃が容易に出来るように簡素化することが求められます。また求められる気密レベルは、給気ダクトの配管方法で当然ながら異なったものとなります。このようなことから第2種換気において、給気口を各居室に設ける場合の気密レベルは、第3種換気と同程度での2cm²/m² 以下であると考えます。これに対して給気口を少なくした簡略された給気ダクト配管では、壁面の隙間から流出する空気量を少なくし、明確な換気経路を有する計画換気を実現する上では、気密レベルを1.0cm²/m² 以下とする事が必要です。とくに給気を2ヶ所程度の床給気ガラリで行う場合には、気密レベルは第1換気システムと同等の0.5cm²/m² 程度とする必要があります。

第2種換気で最も重要なのは給気方法である

第2種換気の給気方法としては、以下の3通りのものが考えられます。

(1) 各居室に給気口を設ける従来型給気方式
(2) 簡素化した天井グリル型給気方式
(3) 更に簡素化された床ガラリ型給気方式

天井グリル給気方式と床ガラリ給気方式は、ダクトの清掃を容易にするために、その簡素化を図ったものです。第2種換気では、この2つの方法を基本とします。以下この2つの給気方式ついて説明します。

【天井グリル型給気方式】

本方式では、図2に示すように給気口は、多くとも1Fに2個、2Fに同じく2個程度とした集中型給気方式とします。また給気口の取り付け位置は、ホール、廊下、水回りを主体とし、居間や寝室等の居室の取り付けは基本的に行わないものとします。この方式の採用に当たっては、換気経路を確保する上で、建物の気密レベルは1.0cm²/m²以下とすることが望まれます。この方式での給気ファンと外気洗浄機の設置位置は、天井懐、あるいは1Fの床下としますが、メンテナンスを考えますと、1Fの床下とすることがベターであると考えます。


sakamoto_6-fig2
図2 天井グリル型給気方式

【床ガラリ型給気方式】

本方式は、給気ダクトの配管のより簡素化を図ったものです。図3に示すように、床下空間に給気ファンと外気清浄機を取り付け、給気はダクトと接続した2ヶ所程度の1F床下ガラリを用いて行なうものとします。この方式は、外気清浄機等の機器類のメンテナンスも容易に出来、かつダクトの汚れの清掃も簡単に出来ることから、是非とも推奨したい方式です。またこの方式の採用に当たっては、換気経路を確保する上で、建物の気密レベルは0.5cm²/m²以下とすることが望まれます。


sakamoto_6-fig3
図3 床ガラリ型給気方式

換気設計は極めて簡単である

天井グリル型給気方式と床ガラリ型給気方式のいずれも、ダクト配管は簡素化されることから、換気設計は極めて簡単です。例えば天井グリル型給気方式での各部材要素は、①外気取り入れフード、②外気清浄器、③断熱ダクト、④Y字分岐菅,⑤給気グリル、⑥排気グリル,⑦排気用フードであり、床ガラリ型給気方式では使用する換気部材はさらに少なくなります。そのために換気設計も簡単であり、ただ単に給気経路の部材の圧損を予め評価されているデータに基づいて求め、それに排気グリルと外部フードの圧損を加えれば良いことになります。また天井グリル型給気方式と床下ガラリ型給気方式のいずれも、天井給気グリル、あるいは床給気ガラリからの給気量は等量とすれば、それらの開度を評価する手の掛かる計算を行う必要でなくなります。換気設計に要する時間は、10分も必要としない極めて短いものです。

施工された第2種換気の性能は

外気清浄機を有する第2種換気の設置・施工が幾つか行われています。その中で必要換気量160m³/hとなる第2種換気の換気量、室内正圧、および室内粒子に関しての測定結果を表3に示してあります。必要換気量は十分に確保されており、かつ室内正圧は10Pa以下となっています。また外気清浄機による微細な汚染粒子の除去も十分に行われていることが分かります。


sakamoto_6-tab3
表3 施工された第2種換気での測定例

おわりに

第2種換気は建物の壁体の内部結露の発生を増長させる危険性がある等の理由で、これまで採用の実績は殆んどありませんでした。しかし第2種換気は、他の換気設備に無い幾つかの優れている点を有しています。とくに最近問題となっていますPM2.5で代表される汚染物質、黄砂、火山灰、スギ花粉等の室内への侵入の防止を図る上での外気清浄機等を容易に取り付けることが出来ます。そのために、今後換気設備の一翼を担うことが出来るものと期待されます。

  


sakamoto_profile

  

■坂本弘志先生コラム一覧

1.現在の換気システムが抱える問題点とは

2.VOCの測定から見た室内空気環境は

3.シックハウス問題は解決したのか

4.これからの第1種換気に求められることは

5.これからの第3種換気に求められることは

6.外気清浄機を有する第2種換気を実現するには

 

※当コラムや画像等及びその内容に関する諸権利は、原則として株式会社トルネックスに帰属します。また、一部の画像・イラスト等の著作権は、原著作者が所有していますので、これらの無断使用、転載、二次利用を禁止いたします。

お問い合わせ

フォームが表示されるまでしばらくお待ち下さい。

恐れ入りますが、しばらくお待ちいただいてもフォームが表示されない場合は、こちらまでお問い合わせください。

トルネックスにお問い合わせ・資料請求・ご質問・ご相談は