Column
空気と換気のコラム

丸谷 博男 先生

5.設備を活用して空気質をコントロールする仕組み

2018/12/28

この連載は、空気と水の話から「健康な住宅建築と室内環境を形成して行く」一連のお話となります。
一歩一歩の探求をご期待ください。

 
家の基本構造は民家の智恵
土壁の利用 土壁には追いつかないが調湿力のある建材を使用する
木材の適切な活用を 再確認する
木を使えば すべて良いというわけではない
自然エネルギーを効率的に活用するためには 
換気ファンとヒートポンプの活用も大切なこと
そして夜と昼の温度差を巧みに活用すること
昼の熱を夜に 夜の涼しさを昼に 活用する蓄熱による時間差利用の工夫も必要
さらに、季節的には
夏の熱を冬に使い 冬の冷たさを夏に使う工夫も可能であれば活用したい
考えてみると 動物たちの越冬の知恵 
そして私たちの先祖である原始時代の越冬の知恵は 地熱利用にあった

 

■ちょうど40年前に取り組んだ 空気集熱式「OMソーラーシステム」


資料4大泉学園の家外観

 
 私が28歳の時に取り組んだのが、空気集熱方式の「大泉学園の家」でした。
 
 石油ショックの真っただ中だった1976年当時、私が助手をしていた東京藝術大学の奧村研究室では、二つの太陽熱集熱方法に取り組んでいました。一つは、太陽熱を 水を媒体に集熱・移送する試み。もう一つは、私の家族が住む住宅「大泉学園の家」で空気を媒体に集熱・移送する試みでした。
 
 奧村研究室としては、建築家が取り組む対象としては、水よりも 空気集熱のほうが建築との相性がよいため空気集熱の探求を継続しました。さまざまな課題を解決しながら「大泉学園の家」は竣工、空気集熱の試運転が始まりました。
 
 しかし肝心の熱計算、熱交換計算など理解できない部分、企業秘密で公開されないデーターもあり、おおざっぱな判断も含めて実施したのです。結果は、冬に熱が採れすぎて暑くて大変、窓を開けておかないと中に居られない、という状況でした。集熱ファンの馬力が大きすぎて、家中が震動してしまうことも。夏は、お湯がしっかりと採れるのですが、貯湯槽と兼用していた貯湯式ガスボイラーの構造は、燃焼構造=冷却構造という矛盾した構造であったため温度降下が目立ち、そのままでは使用できないものであることに後から気づくのです。
 
 こうした問題をふまえ「大泉学園の家」の集熱システムの再計算・改造計画が始まりました。知人の建築家・設備技術者・大学研究者・機器製造業者などが定期的に集まり、「大泉学園の家」の改造も終わり、ようやく日常的に使えるシステムデザインとすることができました。ところが、私の父親が咳や痰が止まらず、何が原因かと思ったら、それは断熱材としてダクトに使用していた軟質木質繊維板にあることがわかったのです。より安価につくれることを考えての材料選定でしたが、まだシックハウスという問題が社会化されていない時代でした。大変複雑な苦い思い出を残し、この実験は約10年で終了したのです。
 
資料1大泉学園の家1 資料2大泉学園の家2 資料3大泉学園の家3
 

■3.11 東日本大震災を契機に、OMソーラーシステムから「そらどまの家」へ

 2011.3.11 東日本大震災は、多くの日本人の生き方に大きな影響を与えたのでは無いでしょうか。
 
 私も、東北の復興住宅には自然エネルギーを活用した住宅を建てて欲しいと願う一人でした。
 
 それまで東京芸術大学(当時助教授)の奥村昭雄先生の指導の下に、OMソーラーに取組んでから35年、OMソーラー協会が活動して25年、さまざまなパッシブソーラーシステムを手掛け取り組んできていたのですが、一軒 200万円から 250万円かかる当時のシステムでは、東北の震災復興住宅には役立たないと考え、限りなく単純で、限りなく安価なシステムを真剣に考え始めたのです。
 
 約一年半の試行錯誤の結果は、市販品の24時間全熱交換型換気扇、センサー付きスイッチ、24時間タイマー、モーターダンパー2台、手動ダンパー1台、の組合せでした。また、補助熱源には、ヒートポンプを使うことはこれまで通りでしたが、室内側の放熱器をエアコンではなく、輻射式ラジエーターを使うことで、システム全体の弱点(冬の高乾燥、冷房がシステムに含まれていない)をカバーするとともに、夏の高湿度・冬の高乾燥を防ぐ合理的な温熱環境を得ることができたのです。
 
 結果は、戦後60年間の空気で暖冷房するエアコンをやめ、空気を使わない輻射式 冷暖房を提唱することになりました。空気を動かさなければ、空気本来の断熱性を暮らしの中で役立たせることができるのです。また、暖房時の乾燥、冷房時の高湿度も解消できることになるのです。室内の粉塵を巻き上げることもなくなり、さらに湿度コントロールも自由になる可能性が高いのです。こうして、「そらどまの家」のシステムの心臓部が整ったのです。しかし、現行の住宅には建築本体の健全化に大きな課題がありました。それをこれまでに連載してきました原理によって同時に解決してきたのです。
 
・ 構造用合板で囲ってしまった住宅は、透湿・通気のない空気環境をつくっている
     →「呼吸する家」の実現
・ 断熱材の力が1部に限られているため、熱容量・輻射熱にたいして弱点を持つ
     →「総合的な断熱工法」の実現
・ 調湿なしの断熱工法だけでは高温多湿・低温低湿の日本の気候に快適をもたらすことはできない
     →「調湿性のある材料と工法」の実現
 
 「そらどまの家」は、これらの課題に対しても正面から取組み、省エネルギーだけではなく、人間にも建築にも、健康な家を実現していきます。私たちの技術と学びの原点は、私たち自身の歴史であり伝統です。一万年を超える住居の歴史は自然との共生の物語です。
 

■「そらどまの家」の換気の仕組み

 「そらどまの家」の基本の一つは、換気です。その換気空気を屋根面で加熱して取り入れるのが冬の昼間、曇りの日や夜間は、外気を室内排気空気と熱交換して室内に取り入れます。夏の夜は、屋根面での夜間の放射冷却により、わずかですが脱湿・冷却した空気を床下に取り入れ、土間コンクリートに蓄熱して、昼間の暑さに備えます。オプションとして、地中熱を活用したシステムも可能です。そして、補助熱源ですが、これには地域の条件と 住み手の要求条件、そして予算とを照らし合わせて判断します。最も完全なシステムは、ヒートポンプ熱源の輻射冷暖房です。場合によっては井水と太陽光温水器の組合せで採暖採涼を実現することもできます。大切なことは、低温乾燥・高温多湿の日本では、空気で暖冷房すると冬はますます乾燥し、夏はますます高湿となりますので、「空気で暖冷房しない!」ことが重要です。輻射が一番なのです。
 
 冬は、屋根面集熱。ただし換気負荷を減らす程度。必要以上に室温を高めることはしません。何故なら高乾燥になってしまうからです。ほどほどにです。ただし、 昼間だけ使う施設では、屋根面にポリカーボネート板を被せて集熱温度を上げることをすることもあります。冬はセンサースイッチ、夏は24時間タイマーで運転をします。


資料5そらどまの家システム図イラスト
資料6そらどまの家年間の運転
資料7そらどまの家展示パネル

 

■花粉症・PM2.5の対策のためには

 ここでトルネックス静電集塵機が登場します。一般には外気の吸気側に高性能フィルターを設けて対応していますが、そこには抜け穴があります。それは、人間が持ち込む花粉や PM2.5の存在です。それらが、清浄化システムから抜けているのです。
 
 この住宅は埼玉県春日部市で実際に建築し現在三年目を迎えている住宅です。この住宅の換気システムは外気取り入れ空気の清浄化とともに、室内循環空気も清浄化しています。そこが一般の換気システムと異なるところです。
 

スーパーmamaの家

 
 「そらどまの家」では、こうした機械換気をシステム化しているとともに、「呼吸する壁」の仕組みがあり、室内空気が常に汚れたままにならない工夫がある家です。住んでいる人も、そこに訪れる人も、その気持ち良さを実感されています。ぐっすりと寝れるのも新鮮な空気のおかげです。風邪をひきにくいのも新鮮な空気と調湿のお陰なのです。
 
(つづく)

 
 


■講師ご紹介

丸谷先生

一般社団法人エコハウス研究会 代表理事・建築家
専門学校ICSカレッジオブアーツ校長(創立55年)

丸谷 博男 先生

パッシブデザイン住宅、エコハウスの第一人者として、自然環境・人工環境にあった地域の伝統的な工夫や工法と併せて、現代技術と様々な知見を採り入れた「そらどまの家」を提唱しています。
 
 

■丸谷博男先生コラム一覧

1.空気質と健康

2.湿気と健康

3.高気密高断熱住宅の落とし穴

4.住まいの壁体内と室内の健康、そして気密・透湿・透気をつくる

5.設備を活用して空気質をコントロールする仕組み

6.換気とはなんだろう

 

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