Column
空気と換気のコラム

丸谷 博男 先生

4.住まいの壁体内と室内の健康、そして気密・透湿・透気をつくる

2018/10/11

この連載は、空気と水の話から「健康な住宅建築と室内環境を形成して行く」一連のお話となります。
一歩一歩の探求をご期待ください。

 
密閉した壁には、空気と木材や現場ゴミなどの有機物がある、湿気もある
その結果は 通風がないために湿気さえあればカビが繁殖する
それは 壁体内も室内も同じ
とくに 室内では有機物は豊富にある
よく別荘や空き家を 梅雨時に締め切っておくとカビだらけになる
そんな話をお聴きになったことはありませんか
もう一つ 生活していると 生活臭 湿気 炭酸ガスやホルムアルデヒドなどの空気の汚れ
という問題があります
これを 空気清浄機や乾燥機で解決する前に
建築そのもので改善しようというのがこれからの話です

 

■気密にするけど、湿気をコントロールするためには
 室内側の気密シートは可変透湿シートを使用すると良い

 


四角い箱の図

 
 現在の住宅建築の作り方は、壁体の外側を防水紙で包みます。
 しかし、それは密閉するものではなく壁体内の湿気を排出するものでなければならない、とされています。
 その結果、防水透湿シートが使われます。これは一般的になっています。
 さて、その次です。室内側にも機密が大切ということで「気密シート」を張ることが標準的な施工方法とされています。しかし、冬に外壁側での結露現象が起きなければ必要ないともされています。
 それでは夏はどのようになるのでしょうか。
 実際の壁体を作り、実験して見ました。その結果は下記の通りでした。
 

壁の実験1

  
 つまり、夏は室内側の壁面で湿気が高くなり、ひどい時には結露する状態となることが実測されました。
 標準的な代表日を選び1日の状況を明らかにし、さらにそれを元にして一年間をシミレーションしてみました。
 

壁の実験2
 
壁の実験3

 
 このように、室内側に「気密シート」を使用すると、壁体内の湿気が高い状態が継続されることが実証できました。
 この「気密シート」を「可変透湿シート」に変えて見ました。
 

壁の実験4

 
 この実験によって、「可変透湿シート」によって壁体内の湿気が大きく改善されることがわかりました。
 さらに詳細に見ると、相対湿度が80%を超えるとカビが急激に繁殖するのですが、「可変透湿シート」の場合には圧倒的に改善されていることがわかります。
 この実験では、傾向を明確にするために、外気は自然状態ですが、室内は、夏(25℃、60%)、冬(20℃、60%)と一定にしています。
 

■水蒸気のコントロールはわかったけど 気体はどうやってコントロールするの?

 冷房する夏に問題のあった「気密シート」(ポリエチレン)は、水蒸気を通しにくいのですが、実は気体は通しやすいプラスティックなのです。これは驚きますね。保存食品で使っているプラスティックは、酸素が入ってきては劣化して困るので気体を通しにくいものにしています。また、真空パックは、そのような気体も入ってきては困るので、それなりの工夫をしています。このように、プラスティックは不思議な性能をそれぞれ持っていると同時に、様々な物質を複合して新しい機能を作り上げているのです。大きく見ると「膜の技術」に注目すると、私たちの暮らしを、様々に支えていることがわかります。今回利用した可変透湿シートについては、ドイツのプロクリマ社「インテロ」を採用しています。その素性は、機能膜はポリエチレン-コーポリマー、補強シート材はポリプロピレンを使用しています。
 


プラスチックのガス・水の透過性

  
 この一覧表からわかることは、水蒸気の壁体内への侵入を防いでいた気密シート「ポリエチレン」は、他のプラスチックと比較すると、窒素・酸素・二酸化炭素の透過量が大変大きいということです。また、外壁側で使っている防水透湿シート(タイベックハウスラップ)も「ポリエチレン」です。正確な性能はわからないのですが、水蒸気に対しての性能を加工している他は、期待に対する性能が変わっていないのであれば、壁体内や室内の空気室には大変貢献している事になります。
 つまり、気体が透過するシートで囲まれた室内や壁体内では、特定の気体が濃度を高めることがないのです。言い換えると室内に比べると膨大な容量を持つ大気に依存した気体割合になるということです。
 大勢の人間が室内に集まり、二酸化炭素が増量しても、壁を通して外気に流れていくという事になるからです。これが、室内を健康にする原理です。
 ここで水蒸気の大きさと気体の大きさを確認してみましょう。水蒸気が通れば気体が通ると言えるにはその大きさを見るのが一番でしょう。
 

■気密シートはわかったけど、他の建材はどうなるのか?

 今度は、内装材に使われるボードの通気性について検証して見ます。
 次の実験をご覧ください。ケイ酸カルシウム板で挟んだ壁を想定しました。つまり、室内にホルムアルデヒドやアンモニアが発生したときに、通気できるのかどうかを確認する実験です。


呼吸のできる家1
呼吸のできる家2
呼吸のできる家3

 

臭い透過メカニズム

 
 この実験により、ケイ酸カルシウム板がホルムアルデヒドやアンモニアを通気することが実証できました。
 つまり、室内の方が気体濃度が高い場合には、同じ濃度になるまで気体分子が移動するということなのです。
 これにより、気体分子の移動を邪魔しない壁構造にすれば、室内の空気や水蒸気が常に外気と同じ状態へを変化していくことが理解できるのです。
 これが、「呼吸する壁」の原理なのです。
 一般の気体分子は水蒸気の粒子よりも小さいため、透湿する壁は気体を通気すると考えることができます。
 ただし、気体分子の移動は、それぞれの性質に従い、透過速度の違いがあることも知られています。
 

■さらに「透湿抵抗」から多くの建材を検証する

 建築で使用する建材には、多種類の物質を様々な形で加工し、それぞれ目的とする機能を果たすために製造し供給されています。「呼吸する壁」を作るためには、これらの材料の中で、透湿性の良いものを選択する必要があります。
 また、その目的のためだけであっては建築の一構成部材としては失格です。耐震性、防火性、耐水性などの要素も複合的に評価していかなくてはなりません。参考に、平成28年版 木造住宅工事仕様書:住宅金融公庫による透湿性能を表す一覧表をご紹介します。


透湿抵抗の少ない素材を選ぶ
 

この一覧表から透湿抵抗値が5以下の建材であれば、透湿が良いと言えるように思えます。10を超える建材は透湿しにくいと考えて良いと思います。残念ながらこの判断は、具体的な実証はなく全体の傾向から経験で決めています。
耐力壁で使っている構造用合板ですが、できればこれを使わないようにしています。「そらどまの家」の開発当初は、土壁に近いダイライトやモイスなどの鉱物質建材を推奨していたのですが、度重なる余震には釘による固定部での粘りがなく、破壊しやすいため、 MDF系のボードを現在では推奨しています。耐力壁を使わずに筋交だけでやる場合には、外側の壁構成に対しての問題はなくなります。
その次は内装壁です。一般に使われている石膏ボードは、調湿生という点ではあまり期待できないため、調湿下地材を使用するように推奨しています。ケイ酸カルシウム系の「バウビオ」をはじめ、モイス、そして調湿性能を高めた内装下地材の「スカットボード」「さらりあ〜と」などの使用も良いでしょう。


  

■呼吸する壁の構成

 そらどまの家の「呼吸する壁」の標準例です。
 これまでに、説明しきれていない建材の選択もありますが、全体像をまずはご覧いただければと思います。
 


最後の図

 
(つづく)

 
 


■講師ご紹介

丸谷先生

一般社団法人エコハウス研究会 代表理事・建築家
専門学校ICSカレッジオブアーツ校長(創立55年)

丸谷 博男 先生

パッシブデザイン住宅、エコハウスの第一人者として、自然環境・人工環境にあった地域の伝統的な工夫や工法と併せて、現代技術と様々な知見を採り入れた「そらどまの家」を提唱しています。
 
 

■丸谷博男先生コラム一覧

1.空気質と健康

2.湿気と健康

3.高気密高断熱住宅の落とし穴

4.住まいの壁体内と室内の健康、そして気密・透湿・透気をつくる

5.設備を活用して空気質をコントロールする仕組み

6.換気とはなんだろう

 

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